アットマークエレ:プリント基板制作に関する技術アイデアまとめ

基板製造に必要なデータの基本と作画データ

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プリント基板の設計・製造には多くの工程があり、多数の人が関わるため、「どのような基板を作るのか」という情報のやりとりがさまざまな場面で生じます。今回は、的確に情報を伝えるためのデータファイルの基本と、代表的な基板製造データである作画データを紹介します。

情報伝達のため必要なデータファイルの種類

 基板の設計、製造には多くの作業工程が必要で、回路設計者、基板設計者、動作の確認や回路や基板の設計を検討するエンジニア、製造技術者など多くの異なる部門の専門家が関わっています(図1)。それぞれの部門のエンジニアたちは、お互いの情報を伝え合うためにたくさんのデータファイルをやりとりする必要があります。

01_基板は多くのエンジニアの共同作業 図1. 基板は多くのエンジニアの共同作業

 現在、基板に必要な電子回路のシステム設計には、コンピュータを使った専用ソフトが必須となっています。電子回路のシステムを開発するためのソフトはEDA(Electric Design Automation)と呼ばれますが、設計工程によってさらにいくつかのソフトに分けられます。

02_基板開発のステップと使われるソフトツール 図2. 基板開発のステップと使われるソフトツール

 回路設計を行うソフトはCAE(Computer Aided Engineering)と呼ばれ、これは、回路図を入力する回路図入力ソフト(キャプチャー:Design Capture)とシミュレータに分けられます。シミュレータは使用しない場合も多いのですが、デジタル論理回路で使用する論理シミュレータと信号のアナログ波形を解析する波形シミュレータに分けられます。

 論理シミュレータには、回路図入力だけでなく、VerilogやVHDLといった記述言語の入力をサポートするソフトもあります。

 そして、基板のレイアウト設計を行うソフトがCAD(Computer Aided Design)です。

 このCADシステムの設計データを使って解析を行う、伝送線路解析(SI:Signal Integrity/解析)や熱解析、PI(Power Integrity)解析などのソフトもあります。

 製造データを作成するソフトは、CAM(Computer Aided Manufacturing)と呼びます。多くのCADソフトは何らかの製造データ出力機能を備えているため、一般にCAD/CAMシステムと呼ばれています。さらに高機能な製造設計や製造データ作成をサポートするCAM専用システムもあります。

 プリント基板の製造にあたっては多くの工程があり、それぞれの工程・製造装置に対しての装置・製造データ必要となるわけです。

基本項目は、座標の原点、単位系、精度

 基板の「レイアウト設計」と「製造」の情報交換は、各種製造データの受け渡しによって行われます。

 設計者と製造者のコミュニケーションの基本項目には、座標原点、座標の単位系、座標の精度があります。

 作画データなど多くの製造ファイルフォーマットでは、これら座標の単位系や精度についてファイル規格が定義されていることが多いです。

 しかし、規格で定義されていない場合は、当事者間の打ち合わせで共通認識を持つ必要があります。特に、「どこが原点であるか」という情報をファイルの中で共通定義することは難しいため「製造指示図」など図面で原点定義をします(図3)。

03_原点定義と各座標 図3. 原点定義と各座標

 製造データの一部のファイルフォーマットでは座標表示が絶対座標だけではなく、前座標からの相対座標で定義可能なフォーマットになっています。

 相対座標は座標位置定義が簡単で、ファイルサイズを小さくできるメリットがありますが、座標誤差が累積されるという問題があります(図4)。そこで、CPUの処理能力が上がり大きなファイルでも扱えるようになった現在では、絶対座標系を使うようにしています。

04_絶対座標と相対座標 図4. 絶対座標と相対座標

ガーバーデータと呼ばれる作画データ

 代表的な製造データとしては、作画データがあります。基板の各層の配線パターンを作画するためのデータのことで、一般的にガーバーデータと呼ばれています。これは、一時ガーバー社(Gerber Scientific Instrument:GSI社)の作画機が非常に多く使われ、その作画データフォーマットが業界標準の作画データフォーマットとなっているためです。

 ガーバーフォーマットにはいくつかのバージョンがあります。

 ガーバーフォーマットは1979年にEIA(米国電子工業会)によりRS-274Dとして、標準化されました。その後、EIAはRS-274Xと呼ばれるガーバーフォーマットのバージョンアップ規格を制定しました。

 いずれも標準化されたフォーマットであり、ほぼ全てのCAD/CAMシステムが出力をサポートしています。多くのCADシステムでは、このガーバーフォーマットのファイルを読み込む機能を備え、他のCADで設計したデータを入力する機能を備えています。

 しかし、ガーバーフォーマットは作画データであり、CADで持っている配線(ネット)情報や部品情報を持ちません。ですから、CADでガーバーデータを読み込む場合は、ネットや部品の情報を別に入力するか、または単に画像として読み込み簡単なレタッチを行うか、2通りの運用が多くを占めます。

フォトプロッタのためのフォーマットRS-274D

 昔からある作画機は、キセノンランプなどの光源からの光をアパーチャー(Aperture)と呼ばれる形状のフィルターと集光レンズを使い、フィルムに作画、露光します。このような作画機をフォトプロッタ(Photo Plotter)と呼んでいます(図5)。

05_フォトプロッタ 図5. フォトプロッタ

 このフォトプロッタのためのフォーマットがRS-274Dです。

 フォトプロッタはベクター描画方式でフィルムに作画します。

 配線幅のアパーチャーを使い、ヘッドやフィルムを動かし線をそのまま記述して行く方法です(図6)。

06_ベクター作画 図6. ベクター作画

 作画に際しては、配線の太さや形状に応じて、多くのアパーチャーが使われます。また、シャッター機能があり、次の線の始点までは露光しないで移動ができるようになっています。

 ランドなどは、フィルムを止めてランド形状のアパーチャーでその形状を露光します。

 フォトプロッタには、アパーチャーホイールと呼ばれるアパーチャーを複数収納できるカートリッジが装着されます。アパーチャーホイールは番号(アパーチャー番号)の付けられたスロットがあり、そこにアパーチャーが収納されます(図7)。作画時には、配線の太さやランドの形状ではなく、アパーチャー番号を指定して作画します。

07_アパーチャーホイールとアパーチャー 図7. アパーチャーホイールとアパーチャー

 正しい作画を行うためには、線の太さや形状をどのスロット(アパーチャー番号)に収納するかどうかを記した対応表が必要となります。

 当然、カートリッジに収納できるアパーチャーの数には制限があるため、配線設計に使える配線の太さや形状の数にも制限があります。

 アパーチャーの径にも限界があります。そのため、RS-274Dファーマットで広い面積を露光する場合には、細い線で面を塗りつぶします。つまり、多くの細い線1本1本のデータとして作画データを作ります(図8)。

面パターンの塗りつぶし 図8. 面パターンの塗りつぶし

 電源やグランドのプレーン層では、RS-274Dは作画データが膨大なサイズになるばかりか、作画時間も非常に長くなります。このため、一般にプレーン層に対してはネガデータを使い、作画時間とデータ量を節約します。

 CADにおいてもプレーン層は、データ量が少なく処理も簡単なネガで設計します。特に電源プレーン層に複数の電源を配置する場合には、ネガ設計でプレーンの境界線だけを設計する方法が使われます。(図9)。

ポジフィルム(左)とネガフィルム(右) 図9. ポジ(左)とネガ(右)

レーザープロッタのためのフォーマットRS-274X

 その後、レーザーの急速な発達と普及に従い、レーザーを光源とするレーザープロッタが主流となりました。

 レーザー光は微細な点(スポット)なのでベクター描画には向かなく、ラスタースキャンと呼ばれる方式で作画します(図10)。

レーザー作画(左)とラスタースキャン(右) 図10. レーザー作画(左)とラスタースキャン(右)

 ラスタースキャンでは、フィルムの全面を作画ヘッドがスキャンするため、線を1本だけ書く場合でも、フィルム全面を塗りつぶす場合でも(ポジでもネガでも)作画に要する時間やコストは変わりません。

 また、アパーチャーを使わないレーザープロッタにはアパーチャーの数による線の太さやパッドの形状の数の制限がありません。

 このようなフォトプロッタとレーザープロッタの機能の違いから、新しいフォーマットが標準としてEIA規格で、RS-274Xが制定されました。

 RS-274Dが標準ガーバーフォーマットと呼ばれるのに対し、RS-274Xは拡張ガーバーフォーマットと呼ばれます。現在はほぼ全ての作画機がレーザープロッタとなったので、一般にガーバーデータはRS-274Xを意味します。

 ただ、RS-274Xが規格化される前からRS-274Dを元に各社で独自の機能を追加したファイルフォーマットも拡張ガーバーと呼ばれていたことがあり、単に拡張ガーバーフォーマットといった場合、それがRS-274Xに準拠したものか、独自の仕様なのか確認が必要です。

 RS-274Xでは、広い面積のパターンに対しての塗りつぶしコマンドができ、面の外形データだけを出力すればよいことになりました。プレーン層が大きなデータを使用しないので、CAD設計であってもプレーン層をポジ設計するようになっています。

 なお、基板作成の作画データは、各層の配線パターンだけでなく、レジスト、シルク、穴、メタルマスクなどでも必要となります。

その他の作画データ

 DXFフォーマットは、機械系CADとして有名なAutoCADがCADデータの互換用に開発した「ASCIIデータフォーマット」です。仕様が公開されているため、多くのCADや作画ソフトでDXFフォーマットをサポートしています。

 基板設計用CADシステムでも、機械系CADで設計した基板外形などのデータをDXFフォーマットで読み込む機能をサポートしているものもあります。

 AutoCADはフレキシブル基板やインターポーザ(※)の設計に広く使われているもので、AutoCAD自身も基板設計用のソフトを持っています。
※インターポーザ=端子ピッチが異なるLSIチップとメイン基板の間で中継するもの

 DXFフォーマットも設計データにレイヤー構造をサポートしているので、基板の各層の作画データをDXFの異なるレイヤーに作ることができ、ガーバーファイルの代わりにDXFファイルを使うこともあります。

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