基板の層とは異なるCADのレイヤー構造 (2/2)
基板には配線層以外にも多数の層があり、基板設計CADではこれら全てを扱います。CADの持つ「レイヤー」情報は物理的な層とは1対1対応しません。基板設計では複数の層にまたがるデータが必要になるからです。
CADのデータ層
基板の基本は、層の概念にあります。
基板設計CADでは、基板の全ての層のデータを設計する必要があります。このため、CADは基板と同じように層(レイヤー=Layer)の概念を反映したデータを持っています。しかも、実際の基板よりも格段に多くの層を保持しています。
CADが持っているレイヤーは、基板の層や基板製造に必要な出力データの層だけではありません。内部には実に多くの層データを持っています。
基板の配線パターンを設計する時には当然、基板の外形が必要になります。そして、基板の外周付近には基板を筐体に取り付けるためのネジやガイドレールがあります。これらのネジやガイドレールの付近には配線パターンを通すことができません。そこで配線パターンを通してもよい領域と、配線パターンを通してはいけない領域のデータが必要になります。
部品を配置する時にも、実装上の制限から、部品の高さによって、配置してよい場所と配置できない場所があります。どの部品をどこに配置できるかできないかの判断には、“基板上のどこにどれほどの高さの部品を配置してよいか”という高さの制限情報と、部品の高さの情報が必要になります。
CADは基板の実際の層データの他に、このような、層ごとの多くの設計制御情報を、レイヤーとして持っています(図1)。 図1.基板の層とCADのレイヤーとの関係
物理的な層とCADのレイヤーは1対1対応しない
基板では同じ層に位置するデータを、CADでは分けて扱うことがよくあります。例えば、基板の部品面層データでは、基板上の配線と部品のパッドの扱いが、データとして異なっています。CADでは、基板の同じ層にあるデータでもレイヤーを変えたり、属性を変えたりして異なるデータとして管理しています。
これらCADの内部データのレイヤーは基板の各層に対応したものや、基板の全層に共通に対応するもの、基板の層とは関係なく、単独に存在するものなど、意味や目的はさまざまです。
さらに、基板の各層にかかわるデータでも、1つの層の中だけで完結しているデータと、他の層のデータと関係を持っているデータに分かれます。
例えば、配線のデータは1つの配線層の中だけで決められますが、ビアを介して他の層へ移る時、ビアは2つの層の配線データにつながっています。
層の中の配線を変更するだけなら、1つのレイヤーのデータだけを変更すればよいのですが、ビアの位置を変更すると、CADは他の層の配線もビアと一緒に動かす必要があります。
ビアはビアに配線されている2つの層だけではなく、基板の全ての層に貫通して存在しますから、1つの層のビアを動かしたときには、全ての層のデータを変更する必要があります。
CADのデータ構造
CADは多くの層のデータを持っています。しかし、設計に際して全ての層が表示されていたのでは、何が何だか識別できなくなり、設計ができません。このため、各層のデータを表示したり、表示しなかったり、表示の色を変えたりする機能が必須です。この機能により、CADの設計画面表示を見やすくし、効率的に設計できるようになります。
層ごとに、データを編集できるようにしたり、ロックして操作ができないようにして、誤操作を防ぐこともできます。
基板設計の途中で、基板の層数を変えたり、層構成を変えることがあります。このため、CADのデータも、設計途中の層の変更は自由にできるようになっています。
基板では同じ層になるデータでも、CADでは、異なる扱いをすることがよくあります(図2)。例えば、先ほど紹介した基板の部品面層データです。基板上の配線と部品のパッドでは、データの扱いが異なります。CADでは、基板の同じ層にあるデータでもレイヤーを変えたり、同じレイヤーのデータでも属性を変えたりして異なるデータとして管理しています。 図2.基板の層とCADのレイヤーの関係
基板設計では、別に定義した部品を使います。その部品を基板上に配置していきます。部品も基板と同じ配線層データやシルク層データを持っています。そこで基板設計の途中で部品を移動した場合、部品の持つ各層のデータを全て同時に移動する必要があります。
このため、基板データの層と、部品データの層は同じ層でも、違うデータとして保持しています。 3次元CADとは異なる
プリント基板のレイアウト設計では、X-Yの方向にμm単位の正確な設計を施します。しかし、Z方向はレイヤーの概念を主に使って層の上下関係や層の厚さ、部品の高さなどは扱うものの、正確な3次元処理はしません。いわば2.5次元の設計です(図3)。
基板設計CADは3次元CADとの間でデータ授受の機能を持っていますが、一般には完全な3次元データの受け渡しはできません。 図3.基板設計CADは3次元CADではなく2.5次元CAD
CADでは設計データの他にも多くの管理データが必要です。
配線情報や設計規則、制約条件などの管理情報はライブラリ化して、同じ条件の設計に再利用できるようになっています。
この他、他のCADやシミュレータとのデータのやり取りのために、CADデータや管理情報を特定のフォーマットで入出力できるような機能が一般的に備わっています(図4)。 図4.異なるCAD間でデータを受け渡す方法
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本記事は、「Allegroで学ぶ実践プリント配線板設計」(発行元:株式会社ジー・ビー)から一部転載しています。