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配線設計の基本とビアの配置

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配線設計の前提になるのがビアです。多岐にわたるビアのうち、どれを選択できるのか、どれを採用するのかを決めないと、配線設計が進みません。また実際の配線設計では、5種類の配線を順に進めていきます。最も優先度が高いのは制約信号配線です。

配線設計

 信号の種類によって配線設計の方法や、CADに必要な機能、考え方が異なります。はじめに、大まかな配線の種類と、配線の考え方を説明しましょう。

A)引き出し配線

 表面実装部品のパッドのそばにビアを配置し、パッドからビアまで引き出し配線をつなぎます(図1)。

 引き出し配線を使うことで、多層基板のどの層からでも、表面実装部品への配線ができます。バイパスコンデンサや部品の電源、グランド信号など、プレーン層への配線はこの引き出し配線を使用することが多いです。

 電源ピンやグランドピンでは、ビアや引き出し配線の同時スイッチングノイズ(SSN)を小さくするための対応をする必要があります。

01_引き出し配線の一例 図1. 引き出し配線の一例

B)制約信号配線

 引き出し配線の後、信号の配線に入ります。バス配線やペア配線、等配線長信号、配線長指定信号など、制約条件のある配線から始めましょう(図2)。

 制約信号配線は、他の配線がない状態で始めるため、基板の配線領域全体を優先して使うことができます。フロアプランニングや部品配置設計の時には、制約信号配線の引き回しを考えました。このときに考えた信号の引き回しと同じになるように、配線を進めていきます。

02_バイパスコンデンサと終端抵抗の配線 図2. バイパスコンデンサと終端抵抗の配線

C)一般信号配線

 次に制約条件のない一般信号線の配線に取り掛かります。一般信号線は制約条件の付いた配線や、他の信号線が配線され空間に引くことが多くなります。このため、配線が長くなったり、回り込みが生じることも考慮する必要があります。

 一般信号を配線するために、先に配線した制約条件付き配線を動かしたり、引き直して、せっかく守られていた制約条件に違反しないようにしましょう。自動配線でもマニュアル配線でも注意が必要な点です。

D)未配線修正

 自動配線機能を使った場合、配線が完了しないことがあります。配線が困難な基板では自動配線で「未配線」が残ったまま終了することがあります。また、設計変更で一部の配線が変更になった場合は、配線できなかった信号をマニュアルで引きます。このような場合は、既に配線済みの信号配線を消去して配線経路を変えたり、場合によっては既に配置されている部品を移動して配線経路を確保し、配線を進める必要があります。

E)面配線

 面配線では内層プレーン層を作成したり、プレーン層の分割や表面層のシールドパターン、電源信号などの太いパターンの設計を進めます。ここでは配線を信号線ではなく面パターンとして設計します。

 面と線では、CADでのデータの扱いが通常異なります。CADのコマンドも配線コマンドと面パターン作成コマンドでは異なります。なお、内層プレーン層の扱いは配線層にある面パターンとは異なります。

使用するビア、配線規則の設定

 配線設計を開始する前の手順を説明します。まず、配線に関するパラメータの設定を確認し、設定していないもの、条件が変わったにもかかわらず変更していないものがあれば、設定しておきます。

 配線設計にかかわるパラメータとしては、配線規則や使用するビア、配線の制約条件などがあります。配線規則には、配線幅や配線と配線の間隙、信号配線のための層とその層の主な配線方向などがあります。

 配線幅は、主に配線の特性インピーダンスや電源、グランド信号、信号電流の大きさなどから指定します。その際、信号によって使用するビアが異なる場合には、線幅と同時に使用するビアも指定します。

 特性インピーダンスを指定するためには、基板の層構成で、マイクロストリップライン構造層、ストリップライン構造層が必要です。基板の層構成によっては、信号を配線する層が限定される場合もあります。

 基本的な配線設計、特に自動配線機能ではX-Y配線が基礎になっていますから、層ごとに基本的な配線の方向(横:X、Horizontal、縦:Y、Vertical)も指定します。

 配線と配線の間隙を決める際には、主にクロストークノイズの影響を避けることを考えます。デジタル信号とアナログ信号の違いや、5Vや3.3Vなどの高電圧デジタル信号系と1.8Vや1.2Vなどの低電圧デジタル信号系の違い、同一バス信号とそれとは異なるバス信号との間隙など、信号種と間隙には多くの組み合わせがあります。

 このように配線規則は多くのパラメータの組み合わせで決まり、設定や確認を効率よく進めるため、ほとんどのCADでは図3のようなスプレッドシート形式で配線規則を設定します。他の汎用表計算ソフトで作成した規則ファイルを読み込むことも可能です。

03_線幅や使用するビアをスプレッドシートで設定した例 図3. 線幅や使用するビアをスプレッドシートで設定した例

さまざまなビアを使い分ける

 ビアを区分けする際、まず2種類に分類することが一般的です。一般信号用の小径ビアと電源/グランド信号用の大きめのビアです。

 ビルドアップ基板や通常の積層多層基板でもIVHビア(Interstitial Via Hole)を使う場合は、層の組み合わせが多岐にわたるため、使うビアの種類が多く、設定が複雑になります。

 通常の積層基板で使うビアでも、層構成や基板製造工程の違いによって表面層から特定の内層までをつなぐブラインドビアや内層から内層までを結ぶベリッドビアがあります。内層の組み合わせによりさらに多くのビアに分かれます。数多くの組み合わせから、基板の製造工程に合わせて、設計に使うことができるビアを設定しなければなりません。

 クロック信号や高速バス信号など特定の信号に対しては、配線に対する特に詳細な指定があります。例えば、デファレンシャル(差動)信号に対する並行配線や、配線長さを指定された誤差内で同じにする平衡配線指定、全てのバス信号やクロック信号の配線長さを指定された誤差内で同じにする等長(等遅延)配線、クロック信号などで配線の長さを指定する配線長(配線遅延時間)指定の配線、多くの部品ピンが接続されている信号に対する配線順序(トポロジー)指定などです。

 これらの配線規定は出来上がった基板が正常に動作するために大切な条件です(図4)。基板レイアウト設計CADを使った設計段階でないと、その後の製造、検査工程では発見できません。

 設計段階で十分なチェックをしないと総合出荷試験での不良率が高くなったり、温度が上がると動作が不安定になったり、性能の悪い製品の製造につながります。きちんとしたルールを設定し、エラーが発生しないようにします。

04_配線の制約条件の一例 図4. 配線の制約条件の一例

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実践プリント配線板設計 本記事は、「Allegroで学ぶ実践プリント配線板設計」(発行元:株式会社ジー・ビー)から一部転載しています。